153 ちょっといい話を聞き、本を読もう



全日制はテスト2日目、大学入試の内容と時間を意識した3年生の総合試験は今日で終了、定時制は今日から全学年一斉に考査が始まりました。


今朝、学校に一本の電話がかかって来ました。

電話をくれたのは群馬県の方で、観光のため休日に車で上田に来たが、迷ってしまい、道を訊ねようとコンビニに入ったそうです。

ところが、店員に聞いても結局わからず、仕方なく自分の車に戻って、携帯でなんとか調べるしかないと思っていたところに、店内のやり取りを聞いていたという女の子4人組が車のドアの窓を叩き、道を詳しく教えてくれたといいます。

名前も聞かずその場は別れたが、家に戻って女の子たちが着ていたジャージをネットで調べたところ、上田高校生だということがわかり、一言お礼を言いたいと、電話をかけたのだそうです。

相手を調べてこのような電話をわざわざかけて来た方も素晴らしいですが、本校生も素晴らしい、「人情」はまだまだ健在だ、と思いました。


さて、今年の『上田高校 図書館報』が発行になりました。




「先生の本棚」というコーナーに、図書委員から頼まれて書いた文章が載っています。



文中で言及した『神様のカルテ0』と『命の器』の2冊の本のカットが添えられていたことには、ちょっと驚き、感動もしました。

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本と読書のチカラ   

校長 内堀繁利

 今教育界では「アクティブ・ラーニング」で議論沸騰だが、個人的には、それは詰まる所、学び手の姿勢そのもののことだと考えている。その点、「本を読む」という行為は、きわめてアクティブ(能動的)な活動だ。自分の目で活字を追い、文字の意味を理解し、その情景を頭の中に描かないと、本当には内容が理解できないからである。

 最近読んだ、松本が舞台の『神様のカルテ0』には、読書好きの末期がん患者が次のように語る場面がある。
「ヒトは、一生のうちで一個の人生しか生きられない。しかし本は、また別の人生があることを我々に教えてくれる。たくさんの小説を読めばたくさんの人生を体験できる。そうするとたくさんの人の気持ちもわかるようになる・・・優しい人間になれる。・・・優しさは弱さではない。相手が何を考えているのか、考える力を「優しさ」というのです。・・・優しさというのはね、想像力のことですよ」

芥川賞受賞作家・宮本輝さんの『命の器』に収録されている「十冊の文庫本」という小品には、家計が苦しい中、母にせがんで、好きな10冊を選び50円で買った文庫本を中学時代に何度も読み返したという著者の読書体験が書かれ、次の話が続く。
 「若者の多くは、そのとき楽しければいいもの、つかのま笑い転げるものしか求めなくなり、人間の魂、人生の巨大さを伝える小説を読まなくなった。そうすることによって、自分を見つめられなくなった。他者の苦しみと同苦できなくなった。・・・私は何の取り得もない人間で、頭も悪く、腕力もなく、わがままで臆病で嫉妬深い。けれども、たったひとつ取り得と呼べるものをあげろと言われたら、私は多少は他者の苦しみと同苦出来ることだと、いささか声を落として答えるだろう」

 君たちには繰り返し「自分の頭で考え、判断し、自分の意志で行動せよ」と伝えてきたが、読書によって、人生に必要な様々な「力」が身に付く。「いずれそのうち」ではなく、大切な今この時期に、時間を作ってぜひ本を読んでほしい。そして、できれば、いつもそばに置いて読み返したくなるような「一生ものの本」に出会ってほしいと願っている。





Posted by 上田高等学校長. at 2015年11月11日21:31